Acipenser fulvescens
Lake Sturgeon
(ミズウミチョウザメ、パンダチョウザメ)
種の解説：他種とは以下の点で鑑別される。
@白地に薄いココア色、黒班が散る（若魚ほどその割合が大きい）。
A背鰭の始まりは、尻鰭よりも前方。
背側鱗＝（８〜）９〜１７；体側鱗＝２９〜４２（〜４３）；腹側鱗＝６〜１２；尻鰭条数＝２５〜４０。
非常に特徴的な種で、同定に困難はない。中型種で、全長は２４０〜２７４cm・体重は１００〜１５０Ｋｇに達する。
分布域はカナダ〜北米の淡水域・汽水域で、最北はカナダのセントローレンス湾から、五大湖、ミシシッピ水系全域と非常に広範に及ぶ。底棲で、通常水深５〜１０ｍと深めで行動する。
採餌行動：採餌に視覚・嗅覚は殆ど使われない。ひげ（触覚）が全ての採餌行動を司る。
ひげが餌を探知すると、折畳式の口器が前方に突き出し、砂ごと餌を口腔内に運ぶ。選別は鰓で行うともいわれているが、砂の殆どは再び口から吐き出され、鰓蓋からはぱらぱらといった感じ。
ひげの触覚は大雑把で、生の感覚さえあれば大きさは区別しない。餌のサイズ･嗜好は明らかに口腔内に選別権が有る。口の中に入ってしまったウツボなどは、鰓からずるずると排出され、その間チョウザメはパニック状態になるが、学習能力に乏しい為、再び同じ行動に出ることも少なくはない。余り好みではない配合飼料も、ひげが察知すれば取り敢えずは口腔内に運ばれる。但しある程度以上の量は飲み込まない為、何度でも吐き出す行動が見られる。
餌の見分ける能力は非常に機械的で貧弱だが、餌場の記憶力は相当に高く、新しい餌場の確保にも積極的である。通常チョウザメは底棲魚で、沈んでいるベントスなどを食っているが、冷凍赤虫など浮遊性の強い餌が水面に溜まっているのを知ると、頻繁に浮上してこれを貪り食う。口器の吸引能力が非常に高い為、集餌性も高い。
本種の採餌行動に際限はない。ひげが餌を感知すれば、次々と餌が口に送り込まれる。大量の餌を撒いても、チョウザメ一匹がいるだけで、10分もしないうちに水槽内は何も無い状態になる。チョウザメの腹部は餌が詰め込まれると変形する。腹側鱗の間隔が広がり、皮膚が著しく突っ張ってくる。只どれほどかき込んでも、カイヤンのように腹部が破裂することはなく、翌日になるとまたすっかり元の状態に戻っている。これは全ての魚種の仔魚がそうであるように、一刻も早く危険な稚魚期を乗り越える為で、チョウザメがそれだけ巨大になるという証である。
推進力：下半身を振ることで、全体を進ませる。尾鰭はその補助で、胸鰭は舵取りのみ、背鰭･尻鰭はバランスを取るくらいにしか働かない。鰓から噴き出す水も、小型の個体ほど推進力に力を添えているようだ。
呼吸：チョウザメはサメと異なり、泳ぎ続けて鰓に水を送るということをしない。特に飼育下では餌がなくなれば、次の餌の時間が来るまでじっとしているものなのである。ところがチョウザメの鰓･特に鰓蓋は硬質で鰓膜も無く、他の硬骨魚類のように緩やかな流れを作ることが出来ない。空気呼吸もしない。彼らはその呼吸を流れに頼っており、特に底流が重要なポイントとなる。しかしながら通常の濾過システムでは、チョウザメに有効な水流は作ることが出来ない。幾ら溶存酸素量を増やした所で、水が鰓を通らなくては何にもならないのである。
回避行動：障害物に弱いチョウザメだが、本種はそれでもこれを機敏（？）に避けることが出来る。
岩･流木など底に転がっている障害物は、先ずはじめに抜け道を探す。視覚は一切使われず、吻端の触覚のみで判断しているようである。抜け道が無い場合は、進行方向を変え、直角･もしくはＵターンにて回避を試みる。広い水槽ならばこれで事がすむが、狭いとそうはいかない。そこで最終的にはこれを乗り越える行動に出る。この乗り越え行動は相当無茶をしており、吻端･前鰭などが基質にがんがん当たることも稀でない。
出口の無いコーナーでは、水面と水底で行動が全く異なる。水底ではチョウザメはパニックに陥り、体を９０度以上曲げて、元来た方向に向き直ろうとする。この際吻端や胸鰭を傷付け、取り返しの付かない事態を引き起こす。ところが水面で同様の事態に陥ったとき、チョウザメは全ての行動をぱたっと止める。するとチョウザメの身体は頭部を上にして垂直になり、確実にコーナーから距離が出来る。その後チョウザメは反転して続きの行動に移り、パニックに陥らない。
参考文献：Lawrence M.Page & Brooks M.Burr : Freshwater Fishes (Peterson Field Guide 42)
National Audubon Society Field Guide to North American Fishes, Whales & Dolphins
A.J.McClane : Freshwater Fishes of North America (McClane's Field Guide)
